福島県を商圏とする大東銀行は本店・支店など61カ所にテレビ会議システムを導入した。銀行業務に必須のBCP対策と基幹系システムの更新にあたっての社内研修での活用が目的だが、早くも移動時間の短縮や交通費・人件費の削減といった効果が現れている。将来的には、店頭業務での顧客サービスの活用も検討する。
[2015年3月26日掲載]
業種: | 金融・保険証券 |
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導入システム: | 統合コミュニケーション |
構築期間: | 3カ月 |
大東銀行は、福島県郡山市に本店を置き、県内全域に支店を持つ福島で有数の地方銀行だ。このほど富士通と富士通エフサスの提案を受けてテレビ会議システムを導入、2014年10月1日から支店60店舗を含む61拠点で計67台が一斉に稼働を開始した。
銀行業界では、もともと多くの拠点を展開していて緊密な連絡が必要であり、また遠隔窓口業務やコンタクトセンターなどの顧客サポートの用途でもビジュアルコミュニケーションが効果的であることから、この数年間で導入が進んできた。
大東銀行でも、こうした業界の流れの中で、10年頃から会議システムの業務活用に関心を持つようになった。そして、2つの大きな出来事を契機に本格的に導入検討を始めることになった。
1つは、2011年3月11日に発生した東日本大震災だ。
地震とその後の津波で東北地方の金融機関の多くが甚大な被害を受けたが、大東銀行も一部の支店が建物の損壊などにより休業を余儀なくされた。県内の被災行の中には、行員の安否確認や被災後の事業継続にテレビ会議システムを活用するケースが見られたことから、大東銀行もBCP(事業継続計画)対策としてビジュアルコミュニケーションの活用を考えるようになった。
もう1つは、2016年5月に予定されている次期基幹系システムへの移行だ。
基幹系システムが新しくなると、各種帳票や伝票に関わるシステムなども一新され、行員の業務内容全体が大きく変わることになる。
行員が一日も早く新システムに慣れるためには、充実した研修体制が不可欠だ。最近、新システムに移行したある銀行では、8カ月間にのべ100日程度の研修を行員向けに実施したという。しかし、大東銀行のように多くの支店を持っていると、全行員を長期間にわたって1カ所に集めることは難しいため、集合研修に代わる手段の確保に迫られていた。
他行の中には研修の代わりにeラーニングを採用しているところもあったが、「一方的な教育ではなく、双方向でやり取りできる方が疑問点を解消しやすい」との観点から、テレビ会議システムに白羽の矢が立った。
選定にあたった、次期システム移行プロジェクトチームのプロジェクトマネージャー鈴木輔氏は、「銀行としてBCP対策が強く求められ、同時に次期システムへの移行への的確な対応という二つの課題に応えるためには、コミュニケーションにも研修にも活用できるテレビ会議システムしかないのではないかと考えました」と判断の経緯を語る。
テレビ会議システムの機種を選定するにあたっては、「品質」「納期」「コスト」の3点を基準としたが、とりわけ重視したのが品質だ。
実は当初、コストの安いWeb会議システムも検討材料に上っていたが、ノートPCに小型カメラを装着した状態で長時間にわたり対面でコミュニケーションを行うことは行員の身体的な負担が大きいと判断したという。
テレビ会議システム製品は4機種が候補になり、全機種について経営層もまじえたデモンストレーションを複数回にわたり実施。その中で富士通が提案した会議システムは「長時間相対していても疲れず、体への負担が少ない点が印象的だった。まるでフェイス・トゥ・フェイスでコミュニケーションしているかのように違和感のない音声や画像に、経営陣からも驚きの声が聞かれました」と鈴木氏は言う。品質の高さに加えて納期やコストといった面も評価され、正式に採用が決まった。
61拠点という大規模導入であることから、次期基幹系システムに対応するネットワーク基盤を構築し終えた拠点から順次、テレビ会議システムを配備していったが、スケジュールなども含めて細部の調整に苦心したという。
また、全行員が短期間にテレビ会議システムの操作方法を習得することも課題になると見られていた。しかし、これは富士通が納入時に大東銀行の組織体制に合わせて予めメニュー画面を作り込んでいたため、大きなトラブルもなく全行員がマスターすることができたという。
総務部調査役の荒井弘行氏は「マニュアルはA4用紙2枚程度の簡単なものだが、その手順通りに操作すればよく、プロセスも少ないので簡単に使えるようになりました」と話す。こうして約1カ月半で全拠点に配備し終え、接続テストを経て一斉稼働にこぎつけた。
導入開始からまだ2カ月余りなのにすでに研修や会議にフル活用されている。
導入による最大の効果といえるのが、会議や研修に関わる移動時間やコストの大幅削減だ。
福島県は全国で3番目に面積が広く、例えば県北部の南相馬地区から本店のある郡山まで移動するのに片道で約2時間かかる。1時間の会議でも、移動時間や交通費の精算などの雑務にかかる時間も含めると、1回あたり6~7時間を費やすこともざらだ。しかも、規模の大きな会議になると、各支店から総勢100人程度が集まることも珍しくない。その間、業務を代行する人の人件費も含めれば膨大なコストがかかってしまう。
テレビ会議システムを導入してからは、本店と各支店の会議室を結んだ遠隔会議が可能になり、移動にかかる時間や交通費の大幅な削減につながっている。「私自身、勤務している事務センターから会議のたびに本店へ移動しなければならなかったのが、テレビ会議システムが入ってからは移動時間が減り、時間を有効に使えるようになりました」とシステム部/事務部主任で次期システム移行プロジェクトの事務局を務める吉田友美氏は言う。
研修については従来、業務を終了した夕方から本店や各地区の母店に集まって受講していた。移動時間も含めると何時間もかかるだけに、「そこまでして研修をする意味があるのか」という雰囲気が研修を実施する側と受講する側の双方にあったという。
しかし、テレビ会議システムを通じて本部のスタッフから研修を受けられるようになったことで、「移動という生産性のない時間が行員のレベルアップの機会に替わり、単なる業務効率化以上の成果が生まれている」と鈴木氏は手応えを感じている。
導入から2カ月余りだが、研修や会議にフル活用されている
さらに、一部店舗では導入時に予定していなかった活用方法も見られる。県西部の会津地区は複数店舗が兼務体制になっている。これまで朝のミーティングを店舗ごとに行っていたため、支店長は各店舗を回るだけで午前中の予定が一杯になっていた。これをテレビ会議システムで「エリア会議」として5店舗一緒に行うことで、支店長も時間を有効に使えるようになったほか、負担が軽減された。
同行では、新たに発売される金融商品やインターネットバンキングのセキュリティ対策に関する研修などにも活用しており、「滑り出しとしては極めて順調」という評価だ。
大東銀行では今後、店頭での顧客接点におけるテレビ会議システムの活用も視野に入れる。
高齢化社会が進み震災の影響も相まって、顧客からの相続や事業承継に関する相談が急増している。これらは個別の案件ごとに違う提案内容が求められるが、各店舗に高度な専門知識を持ったスタッフを揃えることは難しい。しかも、対象となるテーマは幅広く、一人ですべてを網羅することはほぼ不可能だ。そこで本部と支店をテレビ会議でつなぎ、本部にいる専門スタッフが支店の顧客にアドバイスすることを想定している。現在、高度なノウハウや知見が必要とされる分野を選び、具体的な活用方法を模索しているところだ。
さらに、テレビ会議システムの拡張性の高さを活かし、統合コミュニケーション製品との連携なども積極的に検討していく意向だという。
写真左から 総務部調査役 荒井弘行氏、次期システム移行プロジェクトチーム・
プロジェクトマネージャ 鈴木輔氏、システム部/事務部主任 吉田友美氏
本店所在地 | 福島県郡山市中町19番1号 |
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設立 | 1942年(昭和17年)8月18日 |
従業員数 | 585名 (注)従業者数は就業人員数であり、出向受を含み嘱託および臨時従業員を含んでおりません。 |
店舗数 | 62カ店(本店ほか支店61カ店) |
ホームページ | 株式会社大東銀行 |
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